スリーポインテッドスターが憧れだった。
幼少期、物心ついたときには家に190E 2.6スポーツラインがあった。
特別なクルマだと幼い私でも感じた。
W201 190E、W210 E430、R129 500SL 、S211 E350 4MATICを乗り継ぎW140 中期S320を手に入れた私。
W140の金庫のようなドアの開閉音、高速域での絶対的な安心感と安全性。
「ネオクラ」と呼ばれる年代のメルセデスは、造り手の魂とクルマと自分が一体になる特別な感情を持つことができ、AIや電子制御ではなく「魂」の次元で寄り添ってくれるものであると強く確信した。
いつしか終焉を迎えてしまった「魂」を通うことができるクルマ。
膨大な開発費を費やしたW140ですら、迷走と混乱の時代の波に抗えず、栄光と挫折の象徴になってしまった。
その中で先代のW126は私の中では「特別」なメルセデスであった。
「Sクラス」
今回、長い時間をかけて大幅なリフレッシュされた126がEXキーパーの施工のため入庫。
座った瞬間、126が私に語りかけてきます。
「私を美しく蘇らせてほしい、あなたにできるか?」
私はステアリングをやさしく握り、こう答えました。
「貴女のような愛されているメルセデスを施工させていただくことは、恐れ多くも非常に名誉なことです。最善の施工を行います。」
長い時間乗られたクルマは魂が宿ります。
私も何台もそのようなクルマと対話してきました。
最善か無かの時代に造られたメルセデス。
自動車の歴史それはメルセデスの歴史でもありそのフラグシップモデルのSクラス。
560SEL。
史上最高のクオリティで造られたW126
クラフトマンシップの魂と、熟練の職人の手によりリフレッシュされ、何よりもお客様が大切に乗られてきたクルマ。。。。
今回の126は今まで以上に強い魂を感じました。
下地からやさしく、そして躊躇なく磨きあげてきます。
外の喧騒は聞こえません。
魂が交差し、共鳴する。
美しくもスリリングな狂想曲。
想いが手から126に伝わります。
マニュアル通りの押し付け施工ではなく、対話し、魂をぶつけあいながらの施工。一握りの者しか施工できません。
クルマには魂が宿ります。
整備やコーティングの仕事をしていると魂が宿っていることを痛感する出来事が多くあります。
特にオーナーが特別な思いをかけたり、共に過ごしたクルマ、年数を重ねたクルマは強い魂を感じます。
126は今まで以上に強い魂を感じました。
最高のクオリティで造られた126
圧倒的なボディ剛性や金庫のようなドア、ショーファーでありドライバーズカーでもある。
ブルーノ・サッコの美しいデザイン。優雅でありメルセデスのフラグシップモデル。
足回りや各部はリフレッシュやオーバーホールが行われ、
私は「美貌」を復活させる大役を担いました。
魂と身を削り126へすべての想いを乗せて施工をする。
経年している部分はアシレックスで研ぎ、何度も躊躇なくポリッシャーを当てる。
126の魂の叫びと共にポリッシャーの音だけが延々と響き渡るブース。
命を削り、魂の底から感情をぶつける。
狂想曲
126と一つになる瞬間
言葉では言い表せない快楽。
気持ちいい。
この音と磨いている感覚は何であろうか?
126が美しくなってくる感動に包まれる。
ただのマニュアル通りでは美しくもできない。
想いを乗せなければ美しくならない。
クルマと対話し、最高の技術と想いで磨き上げる。
最善か無か?常に頭に置く哲学。
最高のクオリティで造られたメルセデスに最高のクオリティで施工をする。
その強いポリシーと想いを全てぶつけます。
30年超の前のクルマ。美しさを出すためにはマニュアル通りの施工しかできない未熟な者には到底不可能です。経験、技術力、ケミカル、想い。どれか一つでも欠けていれば、最善の施工はできません。
美の伝道師とゴッドハンドが魂の次元で126と会話し、魂がこもったクルマに、そしてオーナーに喜んでもらうために仕上げます。
特にボンネットは傷消しを含め、5回磨きを入れています。
一つ間違えると再塗装や修復になるハイリスクな作業です。
ただ、最善を尽くすために磨きます。
126が私たちに手を加えられて喜ぶように。
練習やコンテストでは不合格どころかタイムアウトで失格でしょう。ただ、練習や「型」のコンテストではない。
目の前にあるクルマは強い魂をもつ126。
126と対話し、最善の施工を行うこと。
何が最善でありどうすればよいのか、
126と私の気持ちが一体になります。
約束は違えない。
「貴女を美しくします」
その言葉の通りにするだけです。
全ての工程が終わり、オーナーさんはもちろんのこと126も喜んでくれました。
最善の施工とは?
ゼロか100か。意味のないものは徹底的に排除し、美しくするためなら時間を度外視して本物の美しさを出すことです。
もちろんトランク部分も躊躇なく磨きあげ美しさを出します。
この年代のメルセデスはトランクに三角表示板がありますが開閉の振動で割れることが多いです。
状態も非常によく、表示板は外して裏側までもしっかりとEXキーパーを施工します。
メルセデスの安全哲学で採用されたリブ付きテールランプもすべて綿棒やブラシなどで下地処理と施工を行います。
元々泥や雪がついても後続車に点灯を知らせる優れた装備です。
さらにコーティングで汚れにくくすることは当然でもあります。
施工ブースにはゴットリープ・ダイムラー氏の肖像画があります。
世界で初めて自動車を発明した偉大なる人物が自動車の歴史となるメルセデス、そして126を見守ってくれておりました。
美しいプレスライン。
サッコプレート。
サイド部分もこだわりぬいて磨きあげます。
サッコプレートは樹脂製で塗装もボディに比べて弱いのでツールもケミカルも変え、力の分配も軽くします。
メルセデスが追求する「細部へのこだわり」をならい、細かいひと手間以上のこだわりを惜しみなくつぎ込みます。
傷もないHWAホイール。通称「ヒトデホイール」ホイルコーティングの施工の際もシートを下に敷き、目線を同じにして施工します。
もちろん長めにお預かりしている中で「日常のコンディションを保つ」ことも行います。
メルセデスを理解し、愛する美の伝道師のみが移動や車内へのアクセスを行います。
1日しばらくエンジンをかけます。
エンジンはキーをひねり、燃料ポンプの作動音が消えたタイミングでゆっくり回します。
M117は最初ぐずりましたが美しくなっていく中で心を開いてくれたのか、どんどんと軽快になってくれます。
20分以上暖気ののち、移動をする際は下記の点を厳守します。
1.機械式4速AT(722.3) 前進時にP→R(一呼吸置き動力伝達を確認)→Nにして動力が切れたことを確認しDにやさしく入れる。 後退時もNで一度止めRに入れる。 Pに戻すときはRの時でも一度Nで中立状態にし、Pに入れる。(W140の場合は同じATでも停車して油圧がかかる前にスコンと動かす方式を取りますが、126の場合伝達ショックが大きめだったので全ての動作を中立から行います)
2.M117 暖気後はボンネットを開けて放熱(20分以上)
3.パワステポンプへの拷問となる据え切りは絶対に行わない。
4.作業終了時は必ず126に座りステアリングをさすり今日の内容を報告。
ただマニュアル通りの一方的な押し付け施工ではなく、細部までこだわり、はっきりとした哲学とクオリティ、クルマと対話して扱うスキルを持っているのは逗子本店のみです。